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わの休憩所(プロジェクトの概要)2/3

コロナ禍の中、自社の休憩所を全国7都市の建築系学生とオンラインで繋がり、設計から実際に建てるという日本初のオンライン産学連携プロジェクト。

このプロジェクトの発端となった大西さんに、プロジェクトに懸けた想いや実際にどのように困難に挑んのか、お話を聞きました。

【創】プロジェクトの始動

オンラインサロンで出会った、建築学生。この学生たちと共同で 自社の休憩所を設計建設するプロジェクト、「わの休憩所」プロジェクトが発足。学生たちの様々なアイディアが飛び交う中で オンラインのやりとりの難しさ、技術面での問題点に直面しました。

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──休憩所プロジェクトは、どういったきっかけで始まったのですか?

きっかけは、オンラインサロンで出会った建築学生たちとの交流でした。彼らのプロ顔負けの3DCAD技術や新しい設計方法に刺激を受けたんです。

「この学生たちと一緒に、リアルな場に“本物”を残せたら絶対面白い」──そう思って、社長に直談判しました。「ヒマだし、やってみな」と背中を押されて、2020年7月、実際に会ったことのない、住んでる場所も、年齢も異なるメンバーと完全オンラインでの産学連携プロジェクトが始動しました。

──Zoomでのプロジェクト進行には、どんな難しさがありましたか?

正直、オンラインだけで信頼関係を築くのは大変でした。顔も合わせたことがないメンバー同士が、本音で意見を出し合うのは簡単じゃない。だからこそ、あえて“雑談”の時間を大切にしました。趣味の話、今ハマってるもの、そんな些細な話が、個人個人の人となりを伝えることに繋がり、どんな個性がその人にあるかを理解しあい、チームとしての空気を育てていったんです。

──設計案はかなりチャレンジングだったとか。

開始当初からSNSでこのプロジェクトは発信しており、アイデアコンペなどはオンライン公開も行っていました。その中で最終案に選ばれたデザインは、見た瞬間に「これ、絶対やる価値ある」と思えるものでした。でも、ざっと見積もって700〜800万円。完全に予算オーバーでした。そこで、クラウドファンディングに挑戦することにして、SNSなどで情報発信を重ね、約300万円の支援を集めました。初めての挑戦でしたが、「共感」が人を動かすという手応えを強く感じました。

──どうやって作るか?という設計難易度は高かったのでは?

かなり高かったです。まず材料の問題として、当時支給された木材は、フローリングでは使えない規格外のもので、幅が狭く、厚みも不均一。産地もバラバラで色味もまばらでした。しかも屋外設置が前提なので、雨風への耐久性も求められます。だから、まずは“どう作るか”を徹底的に考えました。

結論として、すべてを細かくスライスして、最終的に362パーツに分解することにしました。NC加工機の能力やコスト、仕上がりを考慮して、「積層構造」に落とし込んだんです。

──362パーツ! それはかなりの工数ですね。

はい。最初は作るメンバーも頭を悩ませていましたが、進むにつれて、より美しく、より効率よく作るにはどうしたらいいか?アイデアを出し合って模索する姿がありました。この時に「やっぱりアーティストリーの職人たちは素晴らしい!」と強く感じましたね。

──木材のばらつきにはどう対応したんですか?

色味も節の出方もバラバラで、最初は「どうやって整えるか」に悩みました。でも最終的には、あえてその不均一さを“魅力”として活かすことにしたんです。パッチワークのようにランダムに配置してみたら、節の多さや色の違いが表情豊かな模様になって、逆にとてもチャーミングだった。

節がある=グレードが低い、ではなくて、配置の妙で“木の個性”に変えてみました。

──構造的な強度計算などはどうしたのでしょう?

当時、僕らに本格的な構造計算の知識はなくて…。ライノセラス上の簡易シミュレーションで、荷重の偏りを推定したくらいです。でも厚くしすぎると無骨になって美しくない。だからこそ、“薄さと強度のバランス”には特に慎重になりました。

最終的にはビスを外に見せない組み立て方法、パーツごとの順番、隠し金物なども工夫して、見た目と構造の両立を図りました。

──接着や塗装の工夫もあったと聞いています。

はい。屋外ですから、雨に濡れても持つように、接着剤も試行錯誤しました。白い木工ボンドは水に弱くてすぐ剥がれるので、複数の接着剤を実験して選定しました。塗装も、なるべく木の美しさを保ちつつ耐候性を出せるような仕上げを探って、ようやくたどり着いた感じです。

──最終的には、どのような作業分担になったのですか?

NCでできる部分は機械に任せて、鋭角や繊細な曲面は職人の手作業で仕上げました。高速回転の刃物で加工すると欠けやすい部分は、組み上げ後にかんなで微調整。技術と知恵を持ち寄って、「NCと職人のいい関係」を作れたのも大きな学びでした。プロジェクト始動から完成までに7ヶ月かかりましたが、学生たちが卒業するまでに間に合ってくれました。

──完成後のお披露目式は、どんな1日でしたか?

メンバーがリアルで初めて顔を合わせた日でした。これまで画面越しにしか見てこなかった仲間たちと、初対面し、自分たちがかかわった作品に初めて“触れられる”体験。その感動は、誰にとっても一生忘れられない瞬間だったと思います。

──このプロジェクトが、会社にとってどういう意味を持ったと思いますか?

まさに「第二章」の始まりです。もともとうちは、決められた図面をもとにモノをつくる“受注型”の職人集団でした。でも、このプロジェクトは初めて自分たちで企画し、設計し、発信し、資金も集めてつくり上げた。

この“ゼロ番目”のチャレンジが、今のアーティストリーの活動すべてにつながっています。現場力と挑戦力、その両方を証明した象徴的なプロジェクトでした。

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学生たちと共に手を取り合い、試行錯誤を重ねて形にしたこのプロジェクトは、アーティストリーの挑戦力と技術力を改めて認識する機会となった。これまで以上に柔軟な発想と行動力を発揮し、今後の成長への確かな足掛かりとなりました。今後も新たな挑戦を重ねていくというアーティストリー。今後の動向が楽しみです。

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